いったん退職した後、同じ会社に復職し、独立。やりたいことを実現しながら、仕事の幅を広げてきた玉田いづみさんに、キャリアや人生における転機と信念をうかがいました。
退社後に専業主婦として約10年過ごし
再び元の会社に復帰。そして独立
私は、実家も親戚も医師や弁護士ばかりの環境で育ち、親も「女の子は働かなくていい」と考える古いタイプの人でした。ただ、私が就職する頃はひじょうに景気がよく、友人たちが仕事をするという話を聞いて、「私も何かチャレンジしなくては」と思って三菱地所に就職したのです。
入社後10年くらいで結婚のために退社し、夫の転勤で広島に住んだり、子どもも生まれたりと、約10年間、専業主婦の生活をしていました。
仕事に復帰したのは、三菱地所の新規プロジェクト「大手町カフェ」を立ち上げるにあたり、声をかけていただいたから。それに続いて、新しい商業施設の中から街づくりを仕掛けるプロジェクト「丸の内ハウス」も手掛けることになりました。丸の内ハウスは、三菱地所を辞めて独立した今も、統括マネージャーとして関わっています。
独立をきっかけに、他の仕事もさせていただくようになりました。その一つが、東京大学の駒場リサーチキャンパスに開設した学食「食堂コマニ」です。東大の学生だけでなく、さまざまな人との交流が生まれるプラットフォームであり、また、食材にもこだわって、日本の食文化を伝える場でもある、新しいカタチの学食です。
ほかにも、日本各地の地域創生として地域や伝統工芸品のブランディング、商品開発、店舗開発アドバイスなどもおこなっています。

丸の内ハウスのテラス。右下:テラスから見た東京駅。
人と直接会うことはとても大切
そういうリアルな場をつくっていきたい
三菱地所に入社したときに、「ディベロッパーというのは、生まれたところ、住むところ、遊ぶところ、学ぶところなどをつくる、人の人生を幸せにできる仕事」という話を聞いて、ステキだなと思いました。街づくりというと建物などのハード面を思い浮かべがちですが、私自身は、そこに人が集まって楽しい時間を過ごすというソフト面に関わってきていて、そこも大切だと思っています。
特に近年は食の場に携わる機会が多いのですが、カフェやレストランは毎日行けるところなんですよね。だから、そこでさまざまな情報を発信しようと、音楽からファッション、アート、環境問題などの社会課題までをも取り上げたイベントを数多く仕掛けています。
そういう経験を通してあらためて思ったのは、目の前の人たちが喜んだり悲しんだりするリアルな場って重要だなということ。
私自身、人と会うことを大切にしていて、1ヵ月で100人もの人と名刺交換をしていた時期もありました。与えられたミッションは120%で返そうと思っているので、何かをやると決めたら、必ず現場に行って、人と会って、話をして、ということを心がけています。
どんなに辛くても「朝の来ない夜はない」
美味しいものを食べて、地道にやり続けよう
私の人生におけるターニングポイントの1つは、三菱地所を再び辞めたこと。会社に勤めていると安定していますが、1人になったら自分の価値は何だろうと考えてしまい不安でした。そのとき、担当していた丸の内ハウスの全店舗オーナーが私の辞職に反対してくれたのです。それが後押しになって自分の会社をつくり、丸の内ハウスの統括マネージャーを続けることになりました。
その矢先に大きな危機が訪れました。がんが見つかったのです。もう本当にどうしようと思いましたが、まわりの方のサポートもあり、どうにか手術も無事に終わって。
それからは、いろいろなことにチャレンジしなくちゃと思い、地域創生や学食プロデュースなどの新たな仕事も手掛けるようになりました。
誰にも大変なときや悲しくなるときはあるものです。私も病気をして泣きながら寝たことがありました。でも、「朝の来ない夜はない」。そう心に留めて、やり続けることが大事だと思います。真面目にやり続けていれば、道が開けると思うから。私自身、特別なスキルがあるわけではありませんが、「必ずやり遂げる」という信念を持ってすべてに取り組んできました。その思いが伝わり、ご縁が広がり、今があると思っています。誰かのお役に立てるというのは幸せなことです。
働く女性たちは今もこれからも大変だと思いますが、『食べることは生きること』。自分自身も美味しいものを食べて、子どもたちにも、まわりの方にも美味しいものを食べさせてあげたら、みんな元気でハッピーになるんじゃないかと思います。私の仕事に飲食関係が多いのは、そういう笑顔が見たいからかもしれませんね。
「丸の内ハウス」統括マネージャー/株式会社OFFICE IZUMI代表取締役
三菱地所へ入社し、結婚を機に退社。
2005年、環境をテーマにした「大手町カフェ」立ち上げのため同社に復職。
新丸ビル7階の飲食フロア「丸の内ハウス」も立ち上げから担当し、
退社して独立した後も、引き続き「丸の内ハウス」統括マネージャーを務め、現在に至る。
近年は、飲食、地域文化、伝統産業など、多様な領域でブランディングディレクターとして活動。
東京大学駒場リサーチキャンパスの学食「食堂コマニ」もプロデュースし、
実際にキッチンで腕を振るっている。