Patras Interview

vol.8

自分のやりたいことを見つめ
新しい環境に飛び込み
学びを重ねています
ドメストル美紀

文筆家

航空会社、投資銀行に勤務したキャリアを持ち、留学先のフランスで伯爵家の男性と出会って結婚したドメストル美紀さん。自身の人生を通して考えたことや、フランス生活で感じたことをうかがいました。

 

寂しさ、後悔、苦しみから抜け出すために
無我夢中で走り続けた時代も

振り返ると、20代は充実していたと同時に、辛かった時代でもありました。大学卒業後、就職した航空会社での仕事がシフト制だったことや、一人暮らしをはじめたことで、一人でなんとか頑張るしかないという思いを背負っていたのです。私は、もともと家庭を持ちたいという気持ちが強かったので、それができていない寂しさもありました。仕事が嫌で、かといって何をやりたいのかわからない、という不安も抱えていました。
そして、後悔しないために仕事を辞めたのですが、それがまた別の後悔に繋がりました。いいお仕事で、人にも恵まれていたのに、辞めてしまった、と。
それからは、できることをやっていくしかない、と無我夢中でした。ニューヨークにいる姉のところへ行き、そこで運よく投資銀行に勤めることになったのですが、自分の足りなさがわかり、今度はMBA取得のためにフランスへ。
ビジネススクールでの一年は、私にとって大切なものとなりました。夫と出会ったこともありますが、何よりも大きかったのが「自信をつけられたこと」。世界中から優秀な人が集まってくる学校ですけど、その中で私はやっていける、と。私ってダメだと思っていたけど、そんなにダメじゃないかもしれないと思えたのです。



書くことが好きだと気づいてから、自己出版、商業出版、Zineなど、さまざまな機会を捉えて書きつづけています。ウェブマガジン「エクリール」ではエッセイも掲載中。 www.ecriresalon.com

自分にとって何が大切なのかを考えて
ロングスパンでキャリアを考えることを提案したい

若い頃、辛い時代を過ごした私としては、今、キャリアを積んでいる皆さんには、とにかくご自身のメンタルや体の健康を大事にしてほしいと思っています。
加えて、自分を失うほど、キャリアに全力投球しないことも大切だと思います。やがて仕事をしなくなったときに、何も残っていなかったら悲しいですよね。だから、自分の軸というものをしっかりつくってほしいな、と思うのです。そうすれば、エレガントなフランスのマダムたちのようになれるかもしれませんね。
私は家族を優先したのでキャリアにはブランクがあり、40歳後半からまた仕事をはじめようと数々のトライアルをして、執筆の仕事にたどり着きました。そこで思ったのは、これからの社会は、もっとフレキシブルなものになるだろう、ということ。仕事のために家族を諦めるとか、家族を持ちたいからキャリアを諦めるという二者択一ではなくなると信じています。ですから、自分は何をやりたいのか、何が大切なのかを見つめて、ロングスパンでキャリアを考えるといいのではないか、と思います。

フランスの上流階級には
教養をベースにした「美意識の底力」がある

フランスに住んでもう長くなりますけれど、日本との文化の違いを感じることがあります。私は伯爵家の男性と結婚したので、私のまわりで見聞したことでいうと、フランスには「美意識の底力」みたいなものがあるように思います。
上流階級の方たちにとって、特権などのない現代においては、自分たちのプライドを守る最後の砦が「教養」だと感じます。その中には、歴史や哲学など、大学でいう一般教養的なことも入りますし、人に対する思いやりの心やマナーも入ります。また、テニスに誘われたらお付き合い程度にはできる、海の家に誘われたらセーリングもそこそこ知っている。そういったことも含めて、ですね。
一般教養というのも、ただ知識がいっぱいの博識なだけでなく、さまざまなことを繋げて考えるといった思考パターンもあります。たとえば、イースター前の断食期間中は、赤いテーブルクロスより落ち着いた色がいいかしらとか、華やかなバラやチューリップではなく、あえて野花でブーケを作ろうかしらとか。そんなふうに、彼らには教養がはじき出した美意識があると強く感じるのです。
ただ、日本もマナーを大切にしますし、知的好奇心が旺盛で歴史や美術などが好きだと思うので、似ている点もありますよね。
私はサラリーマン家庭で育ち、お料理やお花が好きで美に対する憧れがあったので、美しいものに囲まれている今の生活で、美に対する物の見方をたくさんインプットできて勉強になっています。



ドメストル美紀
東京女子大学、ビジネススクールINSEAD(フランス・フォンテ―ヌブロー校)で学び、
航空会社、投資銀行に勤務したキャリアを持つ文筆家。
日本のサラリーマン家庭に育ち、キャリアを歩む中で
もっと勉強をしたいと留学したフランスで、18世紀から続く伯爵家の男性と出会い、結婚。
現在はパリ郊外のベルサイユにて、夫、二人の息子、
愛猫とともに暮らしています。日本とフランスの文化を背景に
「暮らしの美学」や「エレガンス」などについて執筆、発信しており、
主な著書に『どんな日もエレガンス』『フランス伯爵夫人に学ぶ
美しく、上質に暮らす45のルール』があります。