Patras Interview

vol.5

やりたいことを声に出し
ネットワークを繋げ
互いに助け合える
チャレンジの場を広げたい
及川美紀

2024年、株式会社ポーラ 代表取締役社長を退任後、新しいビジョンへ向かう及川美紀さんの現在をおうかがいしました。

 

リーダーになることを自覚した時がターニングポイント

女性が何歳になっても働け、管理職として雇用される環境があり、女性の力を活用できる会社だと思いポーラに入社。24歳で本社から販売会社へ出向することになった時、肩書きはリーダーでした。
年下の女性たちを教育する立場で、チャレンジすることができる境遇に恵まれ、ポーラレディたちの及川さんがいてくれてよかったという声に満足感もあり、リーダーという立場というよりも、むしろ人の役に立つことを強く思いながら働いていました。
15年ほど働いた後に、課長への昇進試験を受ける打診があり、ここまで頑張ってきたのだから受かるだろうと。いざ臨んだら、見事に試験に落ちました。
受からなかった理由のフィードバックは、将来、会社で何をしたいのかわからない、過去の手柄ばかりを自認し、未来のビジョンが見当たらない。そのような理由に、私はなぜ、出向をして家庭や子供がいても会社のために粉骨砕身の思いで努力したのにも関わらず、わかってもらえないのかと傷心し、グレかかっていました。
そんな時にビジネスパートナーたちが叱ってくれたのです。
「及川さんは課長になって何がやりたいのですか」。
この言葉に気づかされ、私の中で初めて“問”が生まれました。
「リーダーってなんだろう」と。

ビジョンに気づいたと同時に生まれはじめた“問”。
その“問”が、未来へと繋げていく

「この組織を一流にしたい。だから私はリーダーになるのだ」。それが、初めて思い描いた未来のビジョンでした。 翌年の課長昇進試験は通りました。
そして、一流になるために、一流の組織を作るとは。次々に“問”が生まれてきたのです。売り上げなのか、利益なのか、チームワークなのか。頭の中に駆け巡る問に対して、一流の姿と現実のギャップを知った時に、これを私が取り組まなければいけない。誰に頼まれたわけでもない。私が見つけた課題なのだ。この気づきがあったからこそリーダーとして目覚めが始まったのだと思います。

一流とは、という問の答えを求めて、社内の一流な方々に次々と話しを伺いに行きました。すると、みなさんが温かく迎え入れ、私の話を聞いてくれる。そして、ビジョンの実現に向かって人を紹介してくれ、講演会のアテンドをしてくれ、時には役立つ書籍を勧めてくださる方もいました。
私はそれまではリーダーの役割を果たそうと、まわりには助けを求めずに、自分が頑張らなければ、私の責任だと、一人で抱え込んでやってきました。24歳から始まったリーダーの役割でしたから未熟でがむしゃらだったのです。ところが、明快なビジョンを持ち、課題を見つけ、そのたびに浮かび上がる問に対して教えを乞うと、助けてくれる人がいる。どんな危機がやってきても、一人で解決するのではなく、チームで向かっていけることができる。リーダーとしての自覚が確固たるものとなったのです。

ポーラの代表取締役に就任した2020年。折しも世界中がコロナ感染症の影響を受け、世の中が不安に陥りました。しかし、私は不安な情勢だからこそ、チャレンジし、トライできることがあるはずだ。社員たちが “I WILL” という意思を持ち、成し遂げたいテーマを持ってチャレンジする組織を作ることが私に課せられたテーマだと、社内風土改革という大きなビジョンを掲げ、会社の経営戦略の中で人的パワーを最大化していくことを課題として取り組み始めたのです。

 


肩書きも経歴もない真っ白な名刺にしたのは、真っ白な自分がゼロから学んでいきたいという思いからです。

及川美紀の原点に戻るこの先のビジョンへ

2024年、ポーラの代表取締役社長を退任し、私は新しい土壌に立ちました。そして、作った名刺が真白な台紙に、「及川美紀」とメールアドレスだけ。
それは、真っ白な自分で及川美紀という個人としてどこまでチャンレンジできるか。過去の肩書きに甘えず、ゼロから学んでいこうと決意したからです。
やりたいことを仕事にしていこうという精神で、現在は一般社団法人ダイアローグ・ジャパン・ソサエティ理事と一般社団法人Toget-HER代表理事を務めています。前者は、ポーラ在職中から始めた活動で、光が見えない人も音が聞こえない人も、見える、聞こえるという人々と同様にそれぞれの強みを生かして互いに思いやる社会を築く活動です。そして後者は、女性、母親、家庭という過去からの社会通念という狭められた枠から、女性が持つ力を社会に生かし日本の可能性を広げていく活動、シスターフッドの集まりです。
キャリアを目指していく女性にとっては、ネットワークが大切です。世代や業界を超えた繋がりが大きな力となっていくのです。やりたいことやビジョンを声に出してチャレンジを始めると、この繋がりが助けてくれ、共感してくれ、時には背中を押してくれる。繋がりは原動力にもなるのです。
肩書きも経歴も書かれていない真っ白い名刺は、名刺交換をした時に自分の言葉でビジョンを語れなければ、忘れ去られてしまうかもしれません。やりたいことを声に出し、繋がって、大きな力に変えていきたい。原点に戻る思いで未来を見つめています。
 


及川美紀
東京女子大学文理学部卒。
1991年株式会社ポーラ化粧品本舗(現株式会社ポーラ)入社。
商品企画、マーケティング、営業などを経験し、2020年より同社代表取締役社長・2024年末退任。
現在は、ダイバーシティ&インクルージョン推進の活動に注力し、
ダイアローグ・ジャパン・ソサエティ理事、Toget-HER代表理事、MASHING UP理事のほか、
マツダ株式会社、三井住友DSアセットマネジメント株式会社の社外取締役として活躍。