始まりはパソコンソフトの
代理店フランチャイズ
私が就職した当時は「女性は30までに寿退社」が一般的な時代でした。29歳になっても、自分に向いているものは何か、何を目指したいのか、まだよく見えてなかったのですが、充実した社会生活をできるだけ長く送りたい、それが最優先事項だなと思い、そのために「転職ではなく起業」という選択をしました。最初に立ち上げたのはパソコンソフトの代理店です。社会的にもパソコンが一気に普及し始めた頃で、経験もノウハウもない私にとってフランチャイズの代理店制度が一番「固い」な、と思ったからです。そのうち初心者用パソコンソフトをオリジナルで作りたいと思うようになって、マイクロソフト社さんの担当にこうゆうものを作りたいので作ってくれるところを紹介してくれませんかとお願いしました。
私は、ぜんぶ自分でしようとか自分でできるとは思ってないんです。プロフェッショナルを探してその人たちとパートナーシップを組んで進めていくという選択を、これは今でもしています。
2年後、オリジナルのソフトが開発に至って販売できたのですが、すぐにバージョンアップどうしますが?と言われ、あ、これだけ早い展開の商品は私には向いてないと一瞬で悟りました。開発したソフトは、3年くらい商品として勝負できるだろう、その3年の間に生涯かけて取り組める仕事を探そうと思ったのです。
自分のために自分で作った
ジュエリーショップ
歳を重ねるごとにどんどん幸せも重ねられる人生を送っていきたい、それってどんなことかなと考えたとき、自分の記念日や自分へのご褒美に、ジュエリーをひとつひとつ揃えていける大人になれたらカッコいいなと。単なるモノとしてだけではなく、私のジュエリーはこちらでお世話になっているの、というお店をみつけたいなと思って、探しました。接客と空間と商品、この3つのバランスがいいジュエリーショップにはなかなか出会えなくて……。ないのなら自分のために自分が作ればいいんじゃない、とパソコンショップをやりながら隣の7坪の空間で、愛用者目線のジュエリーショップを始めました。展示会を回ってジュエリーを仕入れるのですが、自分は目利きではないし、まず、「いいものを少しでも安く仕入れよう」という考えは捨てました。「少し高くてもいいから上質なものを」、つまり利益を減らしてでも間違えのないものを選ぶようにしました。知識もないのに変な欲を持っては失敗すると思ったからです。
何年かして、心斎橋に路面店を出しました。ある程度いい立地のところにお店を出せば売れるだろうと思っていたのですが、いやいや売れない。周りは卸の店や安売り店などがあって、価格競争になってしまい、大資本には勝てないわけです。資本がなくても勝てる方法は何だろうと考えるとやはり差別化になります。ほかの店になくてお客様が望むもの……。そこで、自分があったらいいなとずっと思っていた2面仕様のリバーシブルリングを商品化しました。そのデザインで特許を申請したところ、あまりにも順調に承認されたので、弁理士の先生に「特許の目的ってなんですか?」と聞きました。当然世の中にまだないものだけれど日本経済の発展に役立つかどうかだ、と言われ、それじゃあ心斎橋の一店舗で売るだけでは特許をいただいた役割が果たせないなと、ブランドをつくって卸をしていくことにしました。それがブライダルとアニバーサルジュエリーのブランド「CAFERING」です。

特許を取得した二面仕様のリバーシブルリング。マリッジリングとして人気の商品。
目標は同業の方から評価されること
縮小モードも戦略次第で前向きな結果に
ジュエリー業界は男性社会です。当初はほとんど女性ひとり、異業種から入ってきてノーマークでしたが、みなさん紳士的な方ばかりで応援していただきました。それは今でもすごく感謝しています。CAFERINGを立ち上げたときに、「消費者が大事」なのはもちろんですが、「同業の方から評価される」会社をつくろう、商品をつくろう、という目標を立てました。その二軸を、スタートのときに決めたのはよかったかなと思います。
歴史もないし後ろ盾もない、ブランドとしての信用を得るために、22年間銀座の路面店にこだわってきましたが、度重なる家賃高騰で私たちのブランド規模と合わなくなり、家賃が経営を圧迫するという状況に陥ってしまいました。22年間、銀座の路面店でがんばってきて、そろそろブランド価値も定着しただろう、これからの時代はミニマル、そのほうが次に挑戦しやすい、と思い切ってオフィスビルの7階にサロンとオフィスを統合すると、不思議なことに中央通りの路面店より売上が上がり、利益体質をつくれるようになりました。路面店からビルの7階への移転というと縮小モードになりがちですが、カタチだけではなく、そうすることで何をしたいのかという明確な戦略をもつことで、ワクワクモードになれたので、ある意味、執着からの脱却も学びましたね。
ずっと温めていた数字のジュエリーの構想
アクションはタイミングを見極めて
CAFERINGをやりながら、数字をモチーフにしたジュエリーを作りたいとずっと思っていました。数字には可能性がある。言語も性別もなく誰もが持っているものだから。でもCAFERINGの中でやるのはもったいないなと思っていました。そんな時ある勉強会で発言の機会を得て、「日本を代表するジュエリーブランドをつくりたいと思っているので、この中で世界への架け橋になってくださる方がいたらご挨拶させてください」って口にだしてみたんです。その時のご縁で、「No.(ナンバードット)」を立ち上げたのが2024年の11月です。
じつは、29歳で独立したとき、自分がどう生きていきたいか目標を立てました。その紙は宝物なので原本は大切にとってあって、コピーを持ち歩いているのですが、58歳までに他社から役員や顧問のオファーがくるくらいの自分づくりをするという目標を書いていました。No.の出資会社からのオファーはまさに58歳。不思議なご縁です。
CAFERINGのノウハウをNo.にもっていけるし、No.で感じたことをCAFERINGに反映できるし、いまふたつの業態をすごく楽しんでいます。
自分がやりたいことを成し遂げたのか
60歳からの自分の描き方
ジュエリーを通してたくさんの人にエールを送りたい。商品はジュエリーではあるのですが、本質はメッセージを届けたい。幸せな人生を送っている人とそうでない人との違いって、自己肯定感なんです。では自己肯定感ってなんなのか、よく自分を愛することって言われていますが、好きや愛するだけではなく、自分を大切にしているかどうかが問題。愛することと大切にすることは同じようでいて、まったく別もので、大切にするという思いやりが幸せにつながると思っています。自分が得た情報や勇気を幸せになるためのエネルギーに変えて、それを隣の人につなげてもらう、循環していくような機会をもうけたい、No.を立ち上げた目的はそこにあります。ただブランドつくりたいとかではなく、何のためか。自分を大切にして生きていくというメッセージを広げたい。そのために、No.の中で1000wings(千の翼)というチャリティ活動をしています。No.のコンセプトは「Happy to be me(私に生まれてよかった)」なんです。そこに参加する人も支援を受ける人も全員がプラスになっていくような循環をつくりたいのです。自分を最大限に生かせることをずっと探してきた中で、生涯で一番やりたいことにやっと辿り着いた、それが60歳の今です。
幸せとは、バランスのいい人生
やったことを
自分にとっての正解につなげればいい
人生の幕を下ろすとき、自分の一生を振り返って、幸せな人生を送れたなと思えれば、それが成功。成功と幸せはイコールかもしれません。自分だけの夢を追いかけるのではなく誰と共に成し遂げるかも大事。意味、目的、ご縁、すべてを大切にしていきたいと年を重ねるごとに思います。テーマは「バランスのいい人生」。1つめは経済的な充実。2つめは人、家族、職場人間関係の充実、3つ目は豊かな時間の過ごし方、4つ目は社会へのかかわり。どう社会に役立つ人間になるのかということ。そして、5つ目は健康。健康寿命は大事と考えて3年かけて歯の治療をしました。この5つをバランスよく、多少の凸凹は仕方ない、豊かさはバランスなので、パーフェクトでなくて当然だから足りないところは努力すればいいのです。
いま、ここからの準備があとあとの楽しく豊かな人生につながると思っています。年を重ねると、先入観や固定概念、失敗の恐れがこびりついてしまうので、クリーンな考え方を心がけています。時代がこんなに変わっているんだから過去の失敗にとらわれない、アップデートしていくことが必要。そのためにも自分に素直に、本当にやりたいことにチャレンジしていこうと思っています。正解を考えず、やったことを自分にとっての正解につなげていけばいいのですから。
1000wings(サウザンドウィングス)
“HAPPY TO BE ME(私に生まれてよかった)”という理念のもと、ジュエリーを通して多様な価値観を受け入れ、ポジティブな自己表現を支援する「No.」から誕生したチャリティ活動。コンゴの女性支援「パンジ財団」と「ノーベル平和賞受賞者世界サミット」に、No.の売上から総合で年間200万円の寄付を実施。新しいブランドにもかかわらず高い設定をしているのは、このくらいのブランドにならないと意味がないと思うという青木さんの意気込みから。
1000 wings チャリティについて
CAFERING 代表・No.(ナンバードット)代表/一般社団法人日本ジュエリー協会 常任理事/1000 Wings 代表
“2002年にジュエリーブランド「CAFERING(カフェリング)」を立ち上げ、
銀座を拠点に全国宝飾店80ヶ所にて取り扱いを店展開。
2024年には、数字をモチーフに「HAPPY TO BE ME ― 私に生まれてよかった ―」を掲げる
「No.(ナンバードット)」をスタート。
現在は日本ジュエリー協会常任理事として業界の発展にも携わるほか、
社会活動「1000 Wings」代表として、
女性が自分らしく未来へ羽ばたくための活動やチャリティーにも取り組んでいる。