長坂ビショップ大山
游刻作家
歌舞伎俳優・中村錦之介丈、元大相撲力士・安美錦竜児さん、裏千家の北見宗幸さんなど、各界の著名人のパーソナルなシンボルマークをデザインし、「游刻」で石に刻む長坂ビショップ大山氏。氏の游刻作品は “しるし” から見えてくる本質を知る面白味と、文字の奥深さとグラフィックデザインの楽しさが味わえます。

游刻作品は、朽ちることのない石という素材に刻まれた自分という存在の証といえます。
自分だけのシンボルマークを持つ意味とは
筆者が新宿・柿傳ギャラリーで開催された氏の游刻展を拝見したのは、たしか 2017 年のこと。游刻とは篆刻のグラフィック版か?と勝手にイメージしていたところ、予想を超える作品たちに魅了されました。「いつかビショップさんにオーダーできる自分になる」と心に決め、それが昨年(2024年)にようやく実現。というのも、オーダーのシステムは、まず 2 ~ 3 時間のヒアリングで自分語りをして、ビショップさんのクリエイティビティに刺激を与える必要があるからです。つまり、はっきりとしたコンセプトが必要。力士や歌舞伎俳優、またはレストランなど店舗ならば、シンボルマークは伝えやすい。しかし個人となると......。これはあくまで、作品を拝見して私が勝手に感じたことではありますが、自分のシンボルマークとは、自分の目指すところ、ひいては生き様(大げさですが)の象徴なのではないか。それを人に伝え理解してもらうには自分の中で咀嚼が必要で、曖昧なままではきっといいものはできないのだろうなと思ったのです。

石印とともに jpg データも納品してくれます。HP や名刺にすぐ使えて、オリジナル T シャツをつくるなんてこともできるのです。
石に刻まれたしるしを見て再確認する自分
オーダーしたあと、游刻のデザインについてのやりとりは一切ありません。それだけ信頼関係が必要。あがってきたデザインに自分のプレゼンテーションの是非が問われるだろうと、期待と不安の入り交じったワクワクした気持ちで待つこと3ヶ月。ずっしりとした桐箱が届きました。ウコンの布をおそるおそる解き、繊細に刻まれた游刻を見たとき、このまま突っ走れーと背中を押されたような気がして、とても嬉しい気持ちになったのです。石という素材のロマンあふれる存在感、自分だけのために生み出されたデザインの創造性、こんな特別な宝物はほかにないかもしれません。

游刻ワークショップに参加した方の作品たち。基本は 1.8 ミリ角ですが、オプションでほかの石のご用意もあります。
まずはワークショップで体験。自分のしるしを彫ってみる
一気にオーダーという高いハードルを跳ぶのもありですが、まずは游刻を自分で彫るというワークショップを体験するのもおすすめです。漢字以外にも梵字やルーン文字といった文字の本、デザインの本など、参考になる資料を用意してくれるので、1.8 cm角にデザインを描き、それを彫っていく地道な作業に我を忘れることでしょう。Patras では東京・青山・表参道と荻窪での開催を企画しました。少人数制となりますのでお申込みはお早めに。ぜひご参加ください。
1953 年渋谷区大山町生まれ。舞台美術家・朝倉摂氏に師事。桑沢デザイン
研究所卒。株式会社婦人画報社にて雑誌編集者として長年務めたあと游刻作
家として独立。新宿・柿傳ギャラリー、金沢・21 世紀美術館、京都・野村美術館、
パリ・エスパス ベルタン ポワレなどで展覧会を開催。