投資や資産と聞くと、お金や不動産を思い浮かべがちですが、人生における“資産”は本当にそれだけなのでしょうか。今回は、5人のお子様を育て上げた川和まりさんに、子育てを通して見えてきた「もうひとつの資産」について伺いました。そこには、お金では測れない価値と、人生を豊かにするための視点がありました。

任せることで育つもの
今回の対談は、「子どもとの向き合い方」というテーマから始まりました。私がとても印象的だったのは、川和さんの「任せる」という姿勢です。最初は少し意外にも感じました。親であれば、つい先回りしてしまうものだと思っていたからです。しかし、お話を伺ううちに、それは放任ではなく、子どもの力を信じるということなのだと分かってきました。
「これをしなさい、あれをしなさい、とはあえて言わない」という言葉の裏には、自分で考え、自分で責任を引き受ける力を育てたいという思いがありました。宿題をしなければそのとばっちりが子どもに返ってくる。それをあえて放置して、自分で学ばせる。日本では子どもを守るあまりに大人が先回りしてしまう場面も少なくありません。けれど、子どもに関わることと管理することは、まったく違うのだと気づかされました。
失敗させるという投資
「子どもの代わりに失敗することはできない」。この言葉には、ハッとさせられました。年齢に応じた小さな失敗を経験するからこそ、自分で考え、立ち直る力を身につけていく。その積み重ねが、将来の自立にも繋がっていくのだと思います。高校を卒業して寮に入った時に何もできないのでは、本人のためにも周りのためにもならない。「巣立つ頃には独立した大人になっていてほしい」という川和さんの言葉は、その願いに込められていました。
川和さんご夫婦はともに金融のキャリアを歩んできましたが、子どもたちは「働いてばかりいるから金融には絶対行きたくない」と言っていたそうです。ところが蓋を開けてみると、5人のうち2人が金融関係の仕事に就いていて、「すごく楽しい」と言っている。川和さんは子どもたちに「楽しいからこそ長時間働けるんだと説明した」と話してくれました。自分で選び、自分で気づく。それが川和さんの子育ての一貫した姿勢なのだと思いました。
子どもを育てる中で、親もまた子どもに依存していることがある。与えたものへの見返りをどこかで期待してしまう。それは自然な感情である一方で、気づかないうちに関係を歪めてしまうこともある。
「見返りを求めず、子どもを一人の人間として送り出す」。
川和さんがその言葉をとても自然に話していたのが、印象的でした。
子どもは“精神的資産”である
「子どもは資産だと思っています。精神的には資産ですね。キャッシュフローは生みませんけれど」と川和さんは話します。子どもたちが新しい視点をもたらしてくれ、自分自身もまた学び続けられるとも。子どもとは、育てる対象ではなく、関わるたびにこちらも変わっていける対等な存在なのかもしれません。
現在、5人のお子さんは日本、アメリカ、イギリスで暮らしているそうです。年に一度は家族旅行で合流し、成長した子どもたち同士の関係を維持していると話してくれました。手放すように育てながら、それでもしっかりとつながっている。その関係のあり方そのものが、川和さんにとっての"私産"なのかもしれません。
私は自分の子どもは持ってないのですが、友人のお子さんの進路相談や受験のサポートをしたりする中で、子どもたちからたくさんのことを教えてもらってきました。川和さんとの対談を終え、子育ては増やすものでも積み上げるものでもないけれど、関係の中で育まれ、結果として残っていく「私産」なのだと感じました。投資という言葉をもう少し広い意味で捉え直してみると、日々の関わり方や選択そのものが、すでに未来への投資になっている。そんな気づきを与えてくれた対談でした。

フィンテック起業家・元資産運用会社CFO
上智大学卒後、報道翻訳を経て公認会計士資格を取得。
国内の監査法人、米国の外資系金融機関を経て、夫とともにフィンテック企業Emotomyを共同創業、
同社のCFOとして経営から資金調達・事業売却(2019年:ノーザン・トラスト)まで統括。
現在は、複数企業の社外取締役を務めながら、金融リテラシー啓蒙や女性のキャリア支援に注力。
