元ポーラ社長であり、Toget-HER代表理事でもある及川美紀さんは、社長時代、対話による経営を心がけてきました。ところが、この春から大学院でウェルビーイングを学ぶなかで、その「対話」には、自分がまだ知らなかった奥行きがあると気づいたといいます。長く仕事をするなかで身についてきた人との向き合い方は、学びの場でどう映ったのか。今回は、及川さんが学びのなかで捉え直している、対話についてお届けします。

左:アートとウェルビーイング、右:大学院での授業風景
私は長く企業で働いてきたので、「1分で話す」「結論から先に伝える」といったことが身についています。限られた時間のなかで話を聞き、判断し、仕事を前へ進める。だから、相手が黙っていると「何か言わなければ」「次の話へ進まなければ」と考えてしまうのです。大学院の先生にそのことを話すと、先生は、相手が黙っているときには「この人は、なぜ黙っているのだろう」と考えるのだと話してくれました。一生懸命に話している人を見れば、その言葉が出てくる背景が気になり、「どのように育ってきたのか」と、生い立ちまで聞きたくなることもあるのだそうです。
人に興味を持つとは、そういうことなのか。私はその話が、とても印象に残りました。同じ時間のなかで、私は会話をどう進めるかを考え、先生は目の前の人について考えている。私も仕事では、相手が今どんな仕事をしているのか、どのような役職に就いているのかに関心を向けていました。でも、その人の言葉が生まれる背景にまで、目を向けていただろうか、と思うようになりました。
以前の私は、1on1でも「今日は何でも言っていいんですよ。私は聞きますから」と伝えていました。それでも相手が話さないと、もう一度「何でも言っていいんですよ」と促す。いま思えば、こちらは聞こうとしているつもりなのに、相手を檻の奥へ追い詰めるようなことをしていたのかもしれません。
対話とは、リスペクトである。
私はそう考えています。目の前の意見や言葉だけでなく、それが生まれてきた背景まで含めたリスペクトです。相手の考えを一度聞けば、その人が分かるわけではない。関心を持ち続けることの意味を、改めて考えています。
