進化するプライベート
ギャラリー、“Gallery L”
原氏がインテリアデザインに関わった広尾の瀟洒な一軒家。その住居を引き継いだのは、暮らしの中に自身のコレクションを展示し、お客様を招きたいという強い想いをもった現オーナーでした。そんな“プライベートギャラリー”をコンセプトにしたリノベーションに再び関わることとなった原氏は、いかにして “暮らしの延長としてのギャラリー”へとリノベーションしたのか。その核心に迫ります。
暮らしの余白に重ねる展示
「最初に決めたことは、竣工当時の“暮らしのための動線”を大きく変えることなく、住むことと作品を見せることを共存させることでした」(原兆英氏)。果たして1階部分はほぼそのまま残し、壁の素材や調光、視線の抜けといった要素をわずかに調整することで、空間は“暮らしの延長としてのギャラリー”へと生まれ変わりました。
従来、展示を前提とした空間は白い壁と均質な光によって構成されてきました。しかし、Gallery Lは、人が暮らす痕跡をほのかに残し、そこに新たな展示機能を重ねています。ライティングは必要な照度を確保しつつ、素材の陰影や作品の奥行きを引き出すような設定がなされています。見せることよりも“感じさせること”を意図した演出が多く、あくまで“暮らしの延長線上にアートがある”という距離感が保たれています。
「完全にギャラリー化するのではなく、どこかに“暮らしの場”が残っていることで、オーナー自身に触れるような展示が可能になるのです」(原氏)。
生活の気配が消えない空間だからこそ、アートは“オーナーの日常”とともにそこにあり、作品はただ展示されているのではなく、暮らしのリズムに寄り添いながら空間の呼吸や時間の流れを映し出していきます。ここでは、鑑賞することと暮らすことが共存しています。その思想は各所に感じられます。

多層化する空間体験──食とアートの共存
その特異性は地下へと続く動線の先で、より一層明確に現れます。元々は倉庫として使われていたその地下空間は、現オーナーが購入した中国のアーティスト婁正綱(Lou Zhenggang)の5枚のキャンバスからなる縦194cm、横810cmという大型作品を展示するためにリノベーションが行われました。
中心には白木で造られた寿司カウンターが設えられ、その簡素で静謐な木の質感と、強い生命力を放つ大型作品とが呼応し合いながら空間に独自のリズムと均衡をもたらしています。
原氏はこうした作品と空間の対話を設計に取り込み、展示空間そのものがひとつの作品となるよう構成しています。
「最終的にいちばん難しかったのは、オーナーの感性を来てくれた方にどう伝えるか、どう共感してもらうかということでした」(原氏)。
視覚だけでなく身体感覚や気配、間合いまで含めた「感じる」場として構成されたこの地下空間は、上階の暮らしの場とは違い、展示という行為を新たな体験へと昇華させる原氏の思想が息づいていました。
「好き」が空間を育てる
オーナーの“好き”によって新たな作品が迎え入れられることで、もともとあった家具が取り払われたり、開口部の使い方が制限されたりと空間は日々再構築されていきます。しかし、それは空間が新しいかたちに“育て直される”ことを意味します。Gallery Lは、まさにそうした過程を経て生まれ変わり、展示と空間のあり方を更新し続けているのです。
人が集まるギャラリーでありながら暮らしの気配を内包するこの場所は、これからも「暮らし」と「展示」、「記憶」と「現在」が重なりながら、新しいかたちを育み続けていくのです。